第399回例会(Web#18) 2022.03.26

第399回例会チラシ
日本海事史学会 第399回 例会(Web#18)

精読・船長日記――50種の写本から見えてくるもの

講師:春名 徹(はるなあきら・会員)

2022年4月23日(土)
14:00~16:00(ルームオープン 13:30)
Zoomにて開催

 

 尾張の廻船督乗丸は文化10年(1813)初冬に漂流、同12年春にアメリカ船にカリフォルニア沖で救助されるまで、「海上漂流484日という世界の海事史上最長となる壮絶な経験をした。『船長日記』は船頭重吉による経験を三河新城藩の池田寛親がまとめた記録である。それは多様な読みを可能とする漂流記である。この物語の力は語り手(船頭重吉)の経験の壮絶さによるのか、あるいは記録者(池田寛親)の力量によるのか、読者の興味をひくのは海上経験の過酷さなのか、送還にあたったロシア人の極東での動向なのか?
 現存する写本およそ50種を読んでみると、テキスト数種のヴァリエーション、記録の継承の型、写本を共有しようという衝動などが見えてくる。
⦅船長日記⦆というテキストを共有したいという衝動は、幕末の識字率の向上を背景に、在村蘭学、国学と結びつき、幕末型の図書館運動への展望をも内包しているのである。

【講師プロフィール】
春名 徹(はるな あきら) 日本海事史学会会員

南島史学会会員。東京大学文学部東洋史学会卒。東アジアの海域史、特に漂流・漂着に関心がある。
近著は『文明開化に抵抗した男 佐田介石 1818-1882』(藤原書店)。専攻とは全然、関係ない。


第390回 例会(Web#9) 2021.06.19

日本海事史学会 第9回 Web例会

「明治時代における軍艦と商船の機関用語について」

講師:佐野 美穂(さの みほ・会員)

2021年6月19日(土)
14:00~16:00(ルームオープン 13:30)
Zoomにて開催

 日本における近代造船史は、200年以上にわたり江戸幕府が施行した大船建造禁止令が解かれた幕末から明治にかけて幕を開ける。時を同じくして西欧でも、帆船から蒸気船への転換期を迎えていた。事実、日本に開国を迫ったペリー艦隊は、4隻のうち2隻が蒸気軍艦、2隻が帆船という編成であった。日本はその後、昭和初頭に当時世界最大級と言われた戦艦大和を建造するまでに至った。
 遥か先を行く西欧列国に追いつき、追い越すほどの進歩を可能にしたのは、西欧に学んだ新技術である蒸気機関を自国で生産、運用できる人材育成に力を注いだからで、その際、他の分野同様西欧から移入した新技術の専門用語の存在を抜きに語ることはできない。いち早く用語の重要性を認識し、実際に制定を手掛けたのは、軍艦を運用する海軍と、商船を管轄する逓信省であった。
 今までスポットライトが当たらなかった舶用蒸気機関用語が、明治期にどのような経過を経て整えられていったのか、その経緯を史料に基づき能う限り忠実に辿るのが本研究の目的である。

【講師プロフィール】
佐野 美穂(さの みほ・日本海事史学会会員)
船との出会いは、新卒で入社したアパレルメーカーで初めての夏休みに上司にスナイプに乗せてもらい、セールと舵だけで風上にも上っていけるヨットの面白さに開眼したのがきっかけ。
いつか本格的に練習したいと思いつつ20有余年を経た後、自分でも果たしてその意欲に変わりはないか半信半疑で若洲のヨット訓練所に申し込み、以来毎週末通い詰めるほど熱中。教訓・好きなことに年齢は関係ない。
数年後には26フィート木造ヨットのクルーを仰せつかり、小型船舶免許を取得。その講習を受けた海洋大学でバイトをすることになったのが縁で、大学院に社会人入学。専攻は海洋環境保全学。安達先生の全面的バックアップのおかげで、5年がかりでようやくこの春修士修了。