日本海事史学会 第413回 例会(Web#32)
五輪聖火を運んだ「遣唐使船」から見えた「伸子帆」の性能
~山口県宇部市の石炭産業の輸送を担ったその帆走性能
講師:今井 常夫(いまい つねお・会員)
2023年7月22日(土)
14:00~16:00(ルームオープン 13:30)
Zoomにて開催
日本の帆船と言えば、前回の講演で紹介された江戸期の弁財船に見られる巨大な一枚帆が先ずイメージされる。しかし西日本では遣唐使船の時代から朱印船、小型のものでは沖縄のサバニに至るまで、フルバテンの入った「伸子帆」が一般的な帆走艤装だった。近年、サバニによる帆走レースも沖縄で開催されているが、複数の帆柱を備えた本船での「伸子帆」の操作方法と帆走性能は謎で、歴史小説や評伝に登場しても帆走技術としてずっと違和感を抱いていた。
瀬戸内海を航海していた曽祖父の石炭帆船は3本マストの洋式船体に伸子帆が交互に艤装された“逆合いの子船”だが、その船に実際に乗っていた大伯父によると「洋式の帆は人手がかかるし風上への切り上がり性能が悪いから伸子帆に取り換えた」のだという。
今回、五輪聖火リレーイベントのためのレプリカではあったものの、実際に大型の「伸子帆」を長崎港内で操作する機会を得たことにより、長年の疑問に答えが見出せた。それは<浪華丸>を実際に帆走させて「和船は追い風でしか走れなかった」という歴史家の常識を覆したことと同じ貴重な実証実験だった。
【講師プロフィール】
今井 常夫(いまい つねお・日本海事史学会会員)
1982年英国帆船〈マルコムミラー〉に日本人として初乗船して英仏間航海、88年西オーストラリア帆船〈ルーウィン〉で建国200年タスマニア~シドニー国際帆船レースに参加。91年企業協賛による日本初の民間セイルトレーニング帆船〈海星〉を発足、ヨーロッパから大西洋、太平洋を舞台に16か月間に渡る「地球再発見の航海」を実施。93年運輸省財団法人として認可され、常務理事事務局長として「海の祭典」をはじめ全国の海事催事に参加しながら帆船航海を通じた育成プログラムを実施。2002年の解散までに全国から延べ2万人以上が航海に参加した。
97年東アジア初の国際帆船レース「香港~沖縄~鹿児島~大阪 Sail Osaka’97」の基本計画から全体運営に携わった後、98年から大阪港開発技術協会参事として大阪市帆船〈あこがれ〉の事業活性化と共に、オリンピック招致に向けた世界一周事業「あこがれワールドセイル2000」の企画運営を担当。
2002年丹青社に移籍、愛知万博などの国際イベントのほか海事博物館の企画や指定管理などを担当。
2021年角川文化振興財団の依頼により、2010 年上海万博のために建造された〈遣唐使船〉を復活・就航させ、東京オリンピック長崎聖火リレーイベントを実現した。
著書に「船長になるには」(ぺりかん社)、翻訳監修に「白い嵐/アルバトロス号最後の航海」(ソニーマガジンズ)など、最近の雑誌記事にSea Dream誌「地球と語る 時と航海術」、KAZI誌「聖火によって蘇った古の遣唐使船」(2021年7月号)「マンガが描く新酒番船 奥深き帆船レースの世界」(2017年9月号)など。
http://tallshipchallenge.jp/imai-history
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