日本海事史学会 第399回 例会(Web#18)
精読・船長日記――50種の写本から見えてくるもの
講師:春名 徹(はるなあきら・会員)
2022年4月23日(土)
14:00~16:00(ルームオープン 13:30)
Zoomにて開催
尾張の廻船督乗丸は文化10年(1813)初冬に漂流、同12年春にアメリカ船にカリフォルニア沖で救助されるまで、「海上漂流484日という世界の海事史上最長となる壮絶な経験をした。『船長日記』は船頭重吉による経験を三河新城藩の池田寛親がまとめた記録である。それは多様な読みを可能とする漂流記である。この物語の力は語り手(船頭重吉)の経験の壮絶さによるのか、あるいは記録者(池田寛親)の力量によるのか、読者の興味をひくのは海上経験の過酷さなのか、送還にあたったロシア人の極東での動向なのか?
現存する写本およそ50種を読んでみると、テキスト数種のヴァリエーション、記録の継承の型、写本を共有しようという衝動などが見えてくる。
⦅船長日記⦆というテキストを共有したいという衝動は、幕末の識字率の向上を背景に、在村蘭学、国学と結びつき、幕末型の図書館運動への展望をも内包しているのである。
【講師プロフィール】
春名 徹(はるな あきら) 日本海事史学会会員
南島史学会会員。東京大学文学部東洋史学会卒。東アジアの海域史、特に漂流・漂着に関心がある。
近著は『文明開化に抵抗した男 佐田介石 1818-1882』(藤原書店)。専攻とは全然、関係ない。