第402回例会(Web#21) 2022.07.30

2022年07月例会チラシ
日本海事史学会 第402回 例会(Web#21)

非核兵器国の原子力潜水艦建造計画 苦難の歴史

講師:谷 弘(たに ひろし・会員)

2022年7月30日(土)
14:00~16:00(ルームオープン 13:30)
Zoomにて開催

 現在の原潜保有国は、核拡散防止条約(NPT)の核兵器国(米英仏露中)と核実験を実施し経済制裁を受けたインドの6ケ国である。しかし、非核兵器国の原潜建造問題は、NPTが検討されていた1960年代から存在していた。初期段階ではイタリアとオランダが関心を持っており、1987年には、カナダが原潜小艦隊の取得計画を発表したがいずれも実現しなかった。
 また、NPT加盟国でなかったブラジルとインドにも原子力潜水艦問題が起こった。インドは、1974年の核実験実施により経済制裁を受けたが、1988年にロシアからリースの形で原潜提供を受け実現したが、ブラジルはアルゼンチンとの軋轢もあり、現在も建造造船所の整備段階である。
 北朝鮮は、金正恩総書記が昨年年頭に発表した重要計画の中に原潜計画も入れており、韓国も計画検討中といわれ、懸念されている。このような中で中国を念頭に、2021年9月に米英豪の新たな防衛協力「AUKUS」が発表され、オーストラリア初の原潜配備支援が決められた。さらに、これらに加えて、ウクライナ問題も発生し、日本でも与野党を問わず原潜議論が始まっている。

【講師プロフィール】
谷 弘(たに ひろし・日本海事史学会会員)

1963年海上保安大卒、海上保安庁、運輸省、総理府、科学技術庁に勤務。
1992年国際原子力機関(IAEA)査察情報処理部長就任、1997年日本原子力研究所理事。
著作:「全面核実験禁止条約(CTBT)とその発効に向けた準備作業」(JAERI-Review)、「原子力船むつ計画から改役まで」(日本海事史学会誌)、「千石船の湊を訪ねて」(芸立出版)等。


第401回例会(Web#20) 2022.06.18

第401回例会チラシ
日本海事史学会 第401回 例会(Web#20)

移民船航海における感染症再考

講師:根川 幸男(ねがわ さちお・会員)

2022年6月18日(土)
14:00~16:00(ルームオープン 13:30)
Zoomにて開催

 多くの人びとを乗せて世界の海域を往来する船舶は、病原体との接触領域でもある。とりわけ、戦前日本のブラジル移民船は、三等エリアに移民を詰め込んだ三密状態で、香港、サイゴン、シンガポール、コロンボなど熱帯域に寄港し、時に感染症クラスターを発生させた。
 移民船の感染症発生についてはいくつかの論考があるが、本報告では、1928年のはわい丸コレラ事件に注目し、移民船航海における感染症の実態と歴史的意味について再考したい。

【講師プロフィール】
根川 幸男(ねがわ さちお)日本海事史学会会員

1963年大阪府生まれ。サンパウロ大学大学院修士課程修了、総合研究大学院大学論文博士(学術)。元ブラジリア大学文学部准教授、現在国際日本文化研究センター特定研究員。専門は移植民史。
おもな著書:『ブラジル日系移民の教育史』(みすず書房、2016)、『移民がつくった街サンパウロ東洋街―地球の反対側の日本近代』(東京大学出版会、2020)。


第400回例会(Web#19) 2022.05.28

第400回例会チラシ
日本海事史学会 第400回 例会(Web#19)

菱垣廻船浪華丸の復元を回顧する

講師:安達 裕之(あだち ひろゆき・会員)

2022年5月28日(土)
14:00~16:00(ルームオープン 13:30)
Zoomにて開催

 

 1994年6月、市制100周年を記念して大阪市は、「なにわの海の時空館」の目玉展示物とすべく弁才船の復元を企て、数ある弁才船の中から大阪と縁の深い菱垣廻船を復元船に選んだ。5年後の1999年7月、復元船は完成し、浪華丸と命名された。以来、四半世紀、弁才船についての新たな知見も得られたので、往時を回顧することにしたい。

【講師プロフィール】
安達 裕之(あだち ひろゆき)日本海事史学会会員

1947年大阪市生まれ、1972年東京大学工学部船舶工学科卒業、同教養学部に勤務して、2012年に退職。東京大学名誉教授。専門は日本造船史。
おもな著書:『異様の船-洋式船 導入と鎖国体制-』(平凡社、1995年)


第399回例会(Web#18) 2022.03.26

第399回例会チラシ
日本海事史学会 第399回 例会(Web#18)

精読・船長日記――50種の写本から見えてくるもの

講師:春名 徹(はるなあきら・会員)

2022年4月23日(土)
14:00~16:00(ルームオープン 13:30)
Zoomにて開催

 

 尾張の廻船督乗丸は文化10年(1813)初冬に漂流、同12年春にアメリカ船にカリフォルニア沖で救助されるまで、「海上漂流484日という世界の海事史上最長となる壮絶な経験をした。『船長日記』は船頭重吉による経験を三河新城藩の池田寛親がまとめた記録である。それは多様な読みを可能とする漂流記である。この物語の力は語り手(船頭重吉)の経験の壮絶さによるのか、あるいは記録者(池田寛親)の力量によるのか、読者の興味をひくのは海上経験の過酷さなのか、送還にあたったロシア人の極東での動向なのか?
 現存する写本およそ50種を読んでみると、テキスト数種のヴァリエーション、記録の継承の型、写本を共有しようという衝動などが見えてくる。
⦅船長日記⦆というテキストを共有したいという衝動は、幕末の識字率の向上を背景に、在村蘭学、国学と結びつき、幕末型の図書館運動への展望をも内包しているのである。

【講師プロフィール】
春名 徹(はるな あきら) 日本海事史学会会員

南島史学会会員。東京大学文学部東洋史学会卒。東アジアの海域史、特に漂流・漂着に関心がある。
近著は『文明開化に抵抗した男 佐田介石 1818-1882』(藤原書店)。専攻とは全然、関係ない。


第398回例会(Web#17) 2022.03.26

第398回例会チラシ
日本海事史学会 第398回 例会(Web#17)

東シナ海周辺部の石干見(いしひび)

講師:岩淵 聡文(いわぶち あきふみ・会員)

2022年3月26日(土)
14:00~16:00(ルームオープン 13:30)
Zoomにて開催

 

 石干見とは定置漁具の一種で、汀線から沖に向かって半円形に石を積み上げた構築物である。高潮時に石干見は完全に海没する一方、低潮時にはその全貌が干潟地に現出する。その際、石干見内には障壁のために逃げ遅れた魚類が残留することになり、これらが傷害漁具や袋網などにより捕獲される。
 東シナ海周辺部は世界でも、石干見漁が集約的に観察できる地域である。中国では16世紀、日本では18世紀初頭の史料に、すでに石干見の存在が明記されている。

【講師プロフィール】
岩淵 聡文(いわぶち あきふみ・日本海事史学会会員)

東京に生まれる。オックスフォード大学大学院社会人類学科博士課程修了。東京海洋大学大学院(ユネスコ水中考古学大学連携ネットワーク)教授。
イコモス国際水中文化遺産委員会日本代表委員。日本海洋政策学会理事。海洋立国懇話会理事。NPO法人アジア水中考古学研究所理事。国連海洋科学の10年(2021~2030年)は、「現地住民・伝統的な生態学上の知識・気候変動:象徴的水中文化遺産としての石干見」(代表:岩淵)を行動プロジェクトに認定している。


第394回 例会(Web#13) 2021.11.27

第394回例会チラシ
日本海事史学会 第394回例会(Web例会#13)

オスマン帝国から見た近世地中海世界

講師:相磯 尚子(あいいそ なおこ・会員)

2021年11月27日(土)
14:00~16:00(ルームオープン 13:30)
Zoomにて開催

 

 プレヴェザ海戦やレパント海戦など、有名な海戦の舞台となった近世地中海世界の歴史は、しばしばヨーロッパの目線から語られてきた。しかし、その海の半分を掌握していたオスマン帝国の存在は無視できない。
 本報告では最新の研究を紹介したうえで、オスマン語で書かれた行政文書を活用し、16世紀から17世紀にかけてオスマン帝国が関わった海の活動を描き出す。そのうえで、分析を試み、新しい環地中海世界史観への一助としたい。

【講師プロフィール】
相磯 尚子(あいいそ なおこ・会員)

2017年4月より慶應義塾大学大学院 後期博士課程在籍、2020年4月より日本学術振興会特別研究員。小学生の頃ゲーム「大航海時代II」にハマり、海と帆船への熱意を抱いたまま人生を突き進んだところ、なぜか博士課程にまで進学していた。専門はオスマン帝国史。2018年9月よりトルコ共和国のイスタンブルへ留学し、2021年3月に帰国、コロナ禍にめげずなんとか得た留学の成果を示したい。


第393回 例会(Web#12) 2021.10.23

第393回例会チラシ
日本海事史学会 第393回例会(Web例会#12)

北日本のムダマハギ

講師:昆 政明(こん まさあき・会員)

2021年10月23日(土)
14:00~16:00(ルームオープン 13:30)
Zoomにて開催

 

 東北地方の北部から北海道にかけて「ムダマハギ」と称される小型木造漁船が近年まで稼働していた。
 ムダマハギとは船底部にムダマと呼ばれる構造部材を使用し、ハギとはそれに舷側板を接合(接ぐ)ことから名付けられたもので、時代、地域によって多様な変化を遂げている。
 船底部に刳り材を使用する点では、日本海沿岸のオモキに類似するものであり、それとの関連にもふれながら、ムダマハギの概要について紹介させていただきたい。

【講師プロフィール】
昆 政明(こん まさあき・日本海事史学会会員)

1950年 青森県生まれ。
1973年 法政大学地理学科卒業。
1973年 青森県立郷土館学芸員2012年まで。
1999年 みちのく北方漁船博物館建設および運営に関与。
2013年 神奈川大学特任教授、現在に至る。


第392回 例会(Web#11) 2021.09.26

第392回例会チラシ
日本海事史学会 第392回例会(Web例会#11)

第二次戦時標準木造貨物船について
―瀬田勝哉著『戦争が巨木を伐った 太平洋戦争と供木運動・木造船』を読む―

講師:安達 裕之(あだち ひろゆき・会員)

2021年9月26日(日)
14:00~16:00(ルームオープン 13:30)
Zoomにて開催

 

 昭和18年1月、戦局の悪化と海上輸送力の緊急な増強に対応して、政府は木造貨物船の大量且つ急速な建造方策を決定して、昭和17年制定の5種の第一次戦時標準木造貨物船を3種に整理した第二次戰時標準木造貨物船の建造に踏み切り、2月から軍需造船供木運動を全国に展開した。
 戦標木造船については橋本徳壽が『日本木造船史話』で取り上げているが、供木運動まで視野に入れて綜合的に論じた研究は瀬田を措いて他にない。しかし、瀬田の研究は画龍点睛を欠く憾みがある。肝心の第二次戦標木造船の像が曖昧模糊としているからである。
 そこで本報告では第二次戦標木造船の実像を提示したい。

【講師プロフィール】
安達 裕之(あだち ひろゆき・日本海事史学会会員)

1947年大阪市生まれ、1972年東京大学工学部船舶工学科卒業、同教養学部に勤務して、2012年に退職。東京大学名誉教授。
専門は日本造船史。
おもな著書:『異様の船-洋式船 導入と鎖国体制-』(平凡社、1995年)


第391回 例会(Web#10) 2021.07.25

第391回例会チラシ
日本海事史学会 第10回 Web例会

「洋学と漂流・漂流記」

講師:松本 英治(まつもと えいじ・会員)

2021年7月25日(土)
14:00~16:00(ルームオープン 13:30)
Zoomにて開催

 近く思文閣出版より洋学史学会監修『洋学史研究事典』が刊行されます。報告者は、研究篇「洋学の社会的基盤」の一項目として、「漂流と漂流記」を執筆する機会を得ました。執筆では、「漂流と漂流記」を「洋学の社会的基盤」としてどうとらえるか、四苦八苦しました。
 洋学の発展と漂流の関係、洋学者による編纂物漂流記の成立など、執筆に際して考えたことを、大槻玄沢の事績を中心に報告し、会員の皆様のご批正を賜りたいと思います。

【講師プロフィール】
松本 英治(まつもと えいじ・日本海事史学会会員)
開成中学校・高等学校教諭。東洋大学非常勤講師。2020年より日本海事史学会理事。
著書に『近世後期の対外政策と軍事・情報』(吉川弘文館、2016年)。


第390回 例会(Web#9) 2021.06.19

日本海事史学会 第9回 Web例会

「明治時代における軍艦と商船の機関用語について」

講師:佐野 美穂(さの みほ・会員)

2021年6月19日(土)
14:00~16:00(ルームオープン 13:30)
Zoomにて開催

 日本における近代造船史は、200年以上にわたり江戸幕府が施行した大船建造禁止令が解かれた幕末から明治にかけて幕を開ける。時を同じくして西欧でも、帆船から蒸気船への転換期を迎えていた。事実、日本に開国を迫ったペリー艦隊は、4隻のうち2隻が蒸気軍艦、2隻が帆船という編成であった。日本はその後、昭和初頭に当時世界最大級と言われた戦艦大和を建造するまでに至った。
 遥か先を行く西欧列国に追いつき、追い越すほどの進歩を可能にしたのは、西欧に学んだ新技術である蒸気機関を自国で生産、運用できる人材育成に力を注いだからで、その際、他の分野同様西欧から移入した新技術の専門用語の存在を抜きに語ることはできない。いち早く用語の重要性を認識し、実際に制定を手掛けたのは、軍艦を運用する海軍と、商船を管轄する逓信省であった。
 今までスポットライトが当たらなかった舶用蒸気機関用語が、明治期にどのような経過を経て整えられていったのか、その経緯を史料に基づき能う限り忠実に辿るのが本研究の目的である。

【講師プロフィール】
佐野 美穂(さの みほ・日本海事史学会会員)
船との出会いは、新卒で入社したアパレルメーカーで初めての夏休みに上司にスナイプに乗せてもらい、セールと舵だけで風上にも上っていけるヨットの面白さに開眼したのがきっかけ。
いつか本格的に練習したいと思いつつ20有余年を経た後、自分でも果たしてその意欲に変わりはないか半信半疑で若洲のヨット訓練所に申し込み、以来毎週末通い詰めるほど熱中。教訓・好きなことに年齢は関係ない。
数年後には26フィート木造ヨットのクルーを仰せつかり、小型船舶免許を取得。その講習を受けた海洋大学でバイトをすることになったのが縁で、大学院に社会人入学。専攻は海洋環境保全学。安達先生の全面的バックアップのおかげで、5年がかりでようやくこの春修士修了。